赤い糸第1章「1日目」
(赤い糸は、全部で3日の構成になっています)

20XX年。寒い日と暖かい日が入れ替わりにやってくる季節になり、
桜の蕾が大きくなり、私たちの卒業の日が後三日と近付いてきた。
私こと井上晴香には、小さな夢がある。
それは、中学卒業するまでに、素敵な恋人を見つけること。
別に、好きな人がいないわけではない。
私には、ずっと片思いの人がいるけど、身近にいすぎるので、告白することも出来ず、今日までずるずるとひきずってきたのだ。
薫「グットモーニング娘。」
通学路をしばらく歩いていると、妙な挨拶をしてくる男子生徒が一人。
彼の名前は桃城薫。私の家の隣に住む、いわゆる幼馴染と言う奴だ。
晴香「あのねえ薫、頼むからその妙な挨拶やめてよね。折角いい天気なのに、台無し。」
薫「いい天気だからこそ、こういうあいさつするんじゃねーか。」
晴香「全く、何でこんな馬鹿っぽいのに学年一位なのよ。」
薫「さあな、何でだろう。」
と、こんなありふれた会話ができるのも、今日を含めて後三日しかない。
別に、薫が転校するわけでも、私が引っ越すわけでもない。
私たちは、三日後に卒業式を迎えるのだ。
そしたら、全寮制の女子高の『里見女子学院』に行くことになり、私たちは会う時間が少なくなってしまう。
そしたら、こんなふうに馬鹿な話もできなくなるわけで。
さくら「はろはろ〜。」
智一「おっはー。」
丁字路に差し掛かると、偶然にもクラスメートの中原さくらと子安智一君に出会った。
晴香「あ、はろはろ〜。」
私は、さくらに挨拶を返した。
薫「おっはー。」
薫も、須磨部の鹿取真吾の真似をしながら挨拶を返した。
晴香「珍しいわね、二人が一緒だなんて。」
さくら「偶然途中で一緒になったのよ。」
智一「でも、たまにはこういうのもいいだろ?」
と、子安君は薫の首に腕を絡めながら言った。
薫「だぁぁぁぁぁ、やめろよ暑苦しい。」
さくら「相変わらず仲がいいよね、子安ちゃんとかおちゃんって。」
晴香「そうね。」
さくらは私の隣に寄り、爽やかな笑みを浮かべて言った。
智一「お前らも、人の事いえねえだろ?」
さくら「うるさぁい!女の子同士がべたべたするのと男の子同士がべたべたするのとでは価値が違うのよ。」
智一「はぁ?何だそれ?」
さくらは、他のクラスメートより少し進んでいる。
一年ぐらい前だろうか、ボーイズラブの漫画を自慢げに持ってきたのを見たのは。
つまり、さくらは男にそういうことを求めているということだ。
私は、絶対にそうはなりたくない。
さくら「そうそう晴香ちゃん、さくらね、また傑作見つけちゃったんだ。おすっすめなんだから。」
晴香「お願い、私をその道に引きずり込むのやめて。」
私は、さくらの話を聞くたびにいつも思う。
自分が好きになった男が、実は男が好きで自分に決して振り向くことがない男だったとしたらどうするのだろう・・・と。
私だったら、絶対に耐えられない。
晴香「それはいいとして、さくらは何処の高校だっけ?」
さくら「え?さくらは九十九(つくも)高校。」
智一「って、薫と同じじゃねえか。」
晴香「さくらって、馬鹿そうに見えて実は、頭がいいのよね。」
さくら「むー!『馬鹿そうに見えて』は余計よ!」
さくら「あ、子安ちゃんはどうなのよ。」
智一「俺は、結果待ち。」
薫「本命は九十九高校だったんだけど落ちたんだと。」
さくら「あはは。」
智一「笑い事じゃねえよ。」
晴香「私は、陸上のスポーツ推薦で里見女子学院。」
薫「てことは、さくらと俺以外はみんな、中学卒業したらバラバラになっちまうんだな。」
さくら「寂しくなるねぇ。」
智一「そうだね。でも、俺たちだってそういつまでもこうして屯している訳にもいかねえよな、いかねえよ。」
薫「だな。」
そんな会話をしながら、私たちは残り三日の中学生活の朝を過ごした。
この日の朝は、まさか私の身にあんなことが起こるなんて、夢にも思わなかった。

私は、学食で食事をし、部室に向かった。
別に、顔を出す必要はないのだが、スポーツ推薦を受けている身の上、一日も練習を欠かすわけにはいかないのだ。
法子「あ、先輩!こんにちわっす。」
この子は坂本法子(ほうこ)。私の次に部で足の速い部員だ。
彼女がその地位にまで達したのは、私といつも練習していたからみたい。
私は、彼女のようなタイプは男女問わずに好きなタイプだ。
なんとなく、そばにいると私まで元気になれる気がするから。
晴香「こんにちは、法子ちゃん。」
法子「今日も練習(ねりならい)来てくれたんすね。」
晴香「まあね。スポーツ推薦枠で里見女子学院にうかったんだから、卒業前まで練習に出るわよ。」
法子「いいなぁ。私もスポーツ推薦で合格できるぐらいの実力が欲しいっす。私って、ほら馬鹿(うましか)すから」
晴香「大丈夫。今の法子ちゃんの実力なら、間違いなく受かるから。」
法子「ほ・・・本当すか?」
晴香「ええ、本当よ。」
法子はにっこりと微笑んだ。
私は、本当に法子はすごい実力がある子だと思う。
だって、私よりも身体が小さいのに私と同じぐらい早いんだもん。
法子「わぁい。私、先輩の今の言葉を信じて、頑張るっす。」
そう言うと、法子は元気よく更衣室を飛び出していった。
私も更衣室でジャージに着替えると、グランドに出た。
そして、一、二時間位軽く走りこみをしたところで、私はトイレに行きたくなった。
晴香「法子ちゃん、ちょっといいかな。」
法子「何すか?」
晴香「ちょっと・・・トイレに行って来るわね?」
法子「え?何でわざわざ・・・。」
晴香「だって、今は法子ちゃんが部長なんだから、法子ちゃんに断わるのは当然でしょ?」
法子「てへへ・・・なんか先輩にそう言われると照れちゃいます。」
晴香「という訳で言ったの、いいでしょ?」
法子「あ、分かったっす、行ってらっしゃいっす。」
私は法子ちゃんにことわり、校舎の中にあるトイレに向かった。
その途中、私は見覚えのある影を見た。
晴香「あれ・・・薫じゃない。」
私は、まだトイレは少しなら我慢できそうだったので、薫をつけることにした。
晴香「あっちって・・・確か、保健室よね。そんなところに何しに行くの?その前に、何で薫がまだ学校にいるの?」
薫は、私が部活を見ていかないかという誘いを、用事があるという理由で断った。
なのに、何で学校にいるの?
私は、脳裏にあることを想像した。
もしかして薫は・・・保険室の先生と付き合っている?
晴香「でも、まさか・・・よね。第一、そんなことしてたら九十九の話だってどうなるか。」
薫「先生、いないんすかー!」
と、薫の声が、保健室の中から聞こえてきた。
やっぱりそうだ、薫、先生と何かあるんだ。
疑惑は確信へと変わった。
私は、さらに薫をつけた。
もしかすると、先生と話をしている現場を押さえられるかもしれないしね。
って、何処かの芸能レポーター並ね、私って。
私が薫をつけていると、不意に薫は私のほうを向いた。
晴香「きゃあ。」
私は急いで、階段の影に隠れようとしたが、足を滑らせ、階段を転げ落ちてしまった。
薫「うわっ。」
薫も、私に巻き込まれ、階段を転げ落ちた。
そして、私は気を失った。

晴香(……あれ?どうしたんだっけ?私。)
晴香(そうだ、薫が保健室の先生と何か関係が有るんじゃないかって思って尾行してたら、足を滑らせて落ちて、薫と階段を転げ落ちたんだ。)
晴香(そして、気を失って・・・。)
私は、ゆっくりと目を開けた。
晴香「いったぁ。」
腕を痛めたみたい。
伸ばした腕に痛みが走った。
薫「いてててててて、一体、何が起こったんだ?」
私の近くに倒れていた女の子が、頭を押さえながら身体を起こした。
逆光になっていて、顔がよく見えなかった。
けど、どこかで聞いた事のある声だった。
薫「確か、晴香が落ちてきたんだよな。それに俺も巻き込まれて・・・。」
そっか、この子、私と薫が落ちたときに巻き込まれたんだ。
大丈夫かな・・・。
晴香「えっと・・・ごめんなさい・・・巻き込んじゃったみたいで。」
私は、その女の子に謝った。
でも、その時、自分の声に違和感を感じた。
これって、私の声じゃない。
薫「こっちこそ、悪かったな。」
と、女の子も私に謝った。
その声は、やっぱりどこかで聞き覚えがあった。
何処か、凄く身近なところで聞いた声なんだけど、何処だったかな。
目が太陽の明るさに慣れてきて、女の子の顔が次第に見えてきた。
私は、女の子を見て心臓が止まるかと思った。
薫「なあ・・・なんで・・・。」
晴香「どうして・・・」
薫「俺が目の前にいるんだ?」
晴香「私が目の前にいるの?」
何か、嫌な予感がする。
私は自分の手を見た。それは、私の手とは明らかに違っていた。
なんていうか、まるで男のように大きな手だ。
え?男?
二人「何じゃこりゃ〜!」
私が・・・男になってる・・・。
薫「何で俺が女になってんだよ。」
目の前にいる私が、私の胸に手をあて、揉みあげた。
薫「うわ!俺に胸がある!」
私も、自分の股間に手を当ててみた。
すると、そこには私にはないはずのものの感触がはっきりとあった。
目の前の私はさらに私の胸を揉んだ。
薫「あ・・・あん。女って、こんな風に感じるんだ。」
晴香「ちょ・・・ちょっと、誰だか知らないけど、私の胸揉むのやめなさいよ!」
薫「誰だか知らないって・・・お前、自分の声聞いて、まだ分からないのか?」
目の前の私は、呆れたようにそう言った。
へー?男の言葉を使う私もなかなか乙じゃない。
そういえば昔は私もこうだったのよね。
じゃなくて・・・。
晴香「その口調、もしかしてあなた、薫?」
薫「ああ・・・やっと分かってくれたようだな。」
目の前の私、つまり薫は首を縦に振った。
薫「どうやら、俺と晴香の中身が入れ替わっちまったみてえだ。」
晴香「なななな、なななな、何ですと?」
晴香「ということは、もしかしてこの中には私の知らない謎の物体が?」
薫「そこまで想像するな!」
私と薫は、図書室にやってきた。
この時期図書室は、ちらちらと生徒がいるだけになっている。
それに、暖房が惜しげなくかかっていることもあり、ここは秘密の会話をするにはもってこいだ。
やっと少し落ち着いてきたけど、まだ体のあちこちが気になる。
晴香「でも・・・どうしてこんなことになったのよ?」
私は、前にいる私、つまり薫を目踏みするように見た。
不思議・・・。
自分で自分を見ているなんて。
薫「俺に聞かれても分かんねえよ。階段を降りていたら、突然晴香が落ちてきて、階段を転げ落ちて、気がついたら晴香になってたんだ。」
薫「でもそうだな、考えられることと言えば、階段から落ちたショックかな。」
晴香「そんな非常識な・・・。」
薫「でも、入れ替わっているのは紛れもない事実だろ?」
晴香「そうよね。」
薫「ところで、あの時お前、隠れようとしてたみたいだけど、どうしたんだ?」
晴香「そ、それは・・・薫の・・・」
薫「俺の・・・何だ?」
薫が、私の顔で、冷ややかな目を私に向ける。
ちょっと、そんなに皺寄せて睨まないでよ。
眉間に皺がついちゃうじゃない。
確かに、薫の尾行をしていた私も悪いけどさ。
晴香「だったら薫だって、わたしが落ちてきたのが分かってたなら、どうして受身取りながら私の体を受け止めなかったの?そしたらこんなことにならなかったかもしんないのに。」
薫「突然だったんだ、できるわけねーじゃねーか。」
晴香「これってどうしたら、元に戻れるのよ。」
薫「さあな。それが分かったらすぐやってるって。」
先生「あなたたち、ずいぶんと面白そうな会話しているじゃない。」
薫「え?」
晴香「あ、あなたは。」
私たちの会話に割って入ってきたのは、たまたま図書室に本を借りに来ていた、保健室の先生だった。
先生「そういう態度って・・・先生に対してあんまりね・・・桃城君。」
晴香「へ?」
薫「先生、何処いってたんだ?」
先生「何処・・・て、別に待ち合わせなんかしてないでしょ?」
薫「いや、そうじゃなくて・・・保健室に行ってもいなかったから。」
先生「え?井上さん、怪我でもしたの?」
薫「へ?井上さん?」
先生「もしかして、今の会話と関係あるのかしら?」
薫「なな、ないない。全然そんなこと、ない!」
晴香「うんうん、そうそう。」
先生「そ・・・そう?だったらいいんだけど・・・。」
先生「あ、そうだ。・・・二人でいいことしましょ?」
と、私の背後に立って、顎先をなでながら言った。
晴香「い・・・いいこと?」
全身に寒気が走った。
いい事って何よ。
先生「昨日はあそこまでやったから、今日はどんどん攻めるわよ。」
晴香「はい?」
薫・・・先生と何してたの?
薫「あ・・・先生、今日は俺・・・じゃなくて、その・・・薫・・・は身体の調子が悪いようなので・・・。」
私は、とてもじゃないけど其処に入れるわけもなく、席を立った。
先生「薫?」
晴香「私・・・失礼します。」
入れ替わった直後は何が起きたかわからなかったけど、今になってやっと実感がわいてきた。
私は今、薫になっているんだってことを・・・。
薫「あの先生、これから話すこと、まじめに聞いて欲しいんだけど。」
薫は、晴香が出て行ってしまった後、そう話を切り出した。
先生「何かしら?井上さん。」
薫「先生は、人間の中身が入れ替わるってことあると思うか?」
先生「入れ替わる?それってどういう意味かしら?」
薫「言葉通りだよ。」
薫「たとえて言えば、店で売っている醤油とソースの中身が、外見のラベルはそのままなのに入れ替わっているような状態とでも言うのかな。」
先生「う〜んそうね、普通は信じないわね。」
薫「やっぱ、そうだよな・・・。」
先生「でも、貴方たちの場合なら信じるわ。」
薫「それって、どういうことだ。」
先生「だって、井上さんがそんな乱暴な言葉遣いしないし、薫だってどう足掻いたって『私』なんて言わないでしょ?」
薫「確かに。」
先生「だったら、井上さんのこと、呼んで来たらどう?」
薫「え?」
先生「あの子、私たちのこと完全に誤解してるわよ?」
薫「・・・分かった、そうする。」
薫は、誤解って何だと思いながら首をかしげながらもそう言うと、図書室を飛び出した。
私が昇降口まで来ると、そこには図書室にいるはずの薫が待っていた。
薫「晴香!」
晴香「何よ。先生とあ〜んなことやこ〜んなこと、するんじゃなかったの?」
薫「あ〜んなことやこ〜んなことって何だよ。」
晴香「セックス・・・とか?」
薫「はあ?何考えてんだお前。だいたい、この身体でちんこ突っ込めるわけねーだろ。」
薫「と、その前に誤解してるみたいだから言っておくけど、俺、先生とは何もないからな。」
晴香「本当に?じゃあ、先生が言っていた『いいこと』って何よ。」
薫「・・・囲碁だよ。」
晴香「囲碁ぉ?」
薫「放課後時々やってたんだ。」
薫「ほら、俺たちってもう後三日で卒業じゃないか。それで先生たちが俺のような囲碁の強い生徒がもうじきいなくなるっつーから、一ヶ月ぐらい前からやってて、昨日から保健室の先生が相手だったんだ。」
晴香「それって、本当?」
薫「疑うなら、先生に聞いてみろよ。俺の言ってることが本当だって分かるから。」
晴香「な〜んだ、そういうことか。それ聞いたら安心しちゃった。」
晴香「でも、何故に囲碁?」
薫「何でだろ〜。」
じゃあ、薫を尾行してた私って・・・。
そしてこうなってしまった私たちって、一体・・・。
薫「でさ、俺考えたんだけど、先生に相談しようかと思うんだ。」
晴香「先生に?でも信じてくれるかなぁ・・・。」
薫「大丈夫。さっき先生には事情を話しておいた。」
薫「それに、俺たちの入れ替わりに気付いてたみたいだぜ。」
晴香「は?」
薫「俺はどう足掻いても『私』なんか言わないからな。それを聞いて疑惑を持ったみたいだ。」
晴香「・・・分かった。ごめんね薫、変な誤解して。」
薫「はあ?先生もそんな感じのこと言ってたけど、訳わかんねーぞ。」
私たちは図書室に戻ると、先生に一部始終を話した。
先生が、腕を組みながら事情を整理する。
先生「なるほどね。大体のことは分かったわ。」
晴香「先生、本当に信じてくれるの?」
先生「だって、女言葉使う薫なんて、考えられないでしょ。」
晴香「確かに。」
先生「うーん、それにしてもふたりとも本当に困ってるみたいね。私でよければ何でも言って?」
晴香「ありがとう、先生。」
薫「でも珍しいよな、先生がこんな厄介ごとに首突っ込むなんてさ。」
先生「だって、中身が幾ら薫でも女同士で囲碁やってもあんまりおもしろくないじゃない。」
薫「それが理由かよ!」
晴香「はあ。先生、信じてくれてよかったわね。」
薫「そうだな。しかも協力までしてくれるって。」
晴香「ほんと。一時はどうなるかと思ったけど、安心した。」
私は、薫の靴に手をかけかけた
薫は、何故かもじもじしはじめた。
晴香「薫・・・どうしたの?」
薫「便所・・・行きてぇ。」
晴香「へ?今なんて言ったの?」
薫「便所に行きてえっつったんだよ。」
晴香「ふーん・・・行けば?」
薫「いいのかよ。」
晴香「この場合しょうがないでしょ?それに、行かないで私の身体を壊される方がもっと嫌よ。」
薫「・・・分かった、行って来る。」
そう言うと、薫はトイレがあるほうに走っていった。
あ、そういえば私、薫を尾行する前トイレ行きたかったんだっけ・・・。

薫「それにしても、昔観月ありさが出ていたドラマで見たシーンだけど、股間に●●●がないってのはやっぱりショックだったぜ。」
私になった薫は、さっきから自分の体、つまり私の体や服をべたべた触っている。
晴香「薫、ちょっと、こんな大通りで恥ずかしいんだけど。それに私の口でちんこなんて言わないで!」
薫「でも晴香だって、俺の体に興味あるだろ?」
晴香「ええ?そんなこと無い・・・とはいえないけど・・・。」
身体っていうより、貴方自身に興味があるんだけど。
そんなことを話しているうちに、私たちは自分たちの家に着いた。
こういう時、家が隣同士だと便利だと思う。
別れる一瞬まで自分を見ていられるし、何かあってもすぐに行けるしね。
晴香「じゃあね。」
薫「ああ。ヘマするなよ。」
晴香「そっちこそ。」
私は、薫の家に入った。
時々来てはいるものの、やはり一人だと緊張する。
晴香「た・・・ただいま」
ここは自分の家なんだ。そう言い聞かせながら、玄関をくぐった。
薫の母「おかえりなさい。今日は先生に捕まらなかったの?」
晴香「え?何で?」
薫の母「この頃薫って、先生の囲碁の相手で帰り遅かったんじゃない。」
晴香「あ・・・今日は晴香が早く部活が終わったみたいだから断ったの。」
あの話、本当に本当だったんだ。
薫の母「そうだったんだ。ああいう年頃の女の子は難しいから、気をつけたほうがいいわよ。」
晴香「うん、分かってる。」
そんなこといわれなくても、私は元々女なんだから分かるわよ。
男の子の方がずっと難しいわよ。
薫の母「もう少しでご飯ができるから、着替えてらっしゃい。」
晴香「は〜い。」
私は返事をして、服を着替えるために薫の部屋に向かうことにした。
でも、昔から薫の家って広いから、来るたびに迷うのよね。
辿り着けるかな。
私は、自分の記憶を辿った。
そして、前に薫に突き当たりの部屋に案内されたことを思い出し、奥の部屋に入った。
晴香「はあ・・・やっと来れたわ。」
私は、部屋を見渡した。
相変わらず、よく言えば綺麗、悪く言えば殺風景な部屋だ。
きれいに整頓されているというか、物がほとんどない。
あるものと言えば、机と教科書類、それとベッドぐらいだ。
年頃の男子が隠し持っているであろう、エロ雑誌という類のものもまったくなかった。
さてと、私服に着替えないと。
好きな人の服を脱がせるとなると、ドキドキしてくる。
男の服というのは、本当にシンプルだ。
スカートのように、ファスナーが横にあったり後ろにあったりということはないから、服の構造に困るということはなさそうだ。
私はコート、ブレザー、ネクタイ、ワイシャツと、一枚ずつ脱いでいった。
そして、自分で用意した服を着込んだ。
今頃、薫も着替えてるのかな。

薫「ただいま。」
薫は、意を決して家に入った。
昔からよく来ている家だとは言え、このような状況で来た事はないので、流石に緊張しているようだ。
晴香の母「晴香、ちょうど良い所に帰ってきたわね。お風呂が沸いてるから、入るんなら先に入っちゃいなさい。」
薫「え?風呂?」
晴香の母「その格好・・・どうせ、あなたのことだから今日も帰りにしてきたんでしょう?陸上の練習。」
薫「え?あ、うん。そうする。」
と、返事をしたが、薫は心の中であわてていた。
薫(おい、俺が風呂に入っていいのか?俺は今は晴香の姿をしてるけど、本当は薫なんだぞ?)
薫「いいんじゃねーか?今は俺の身体なんだから。」
薫(いや、でもあとであいつに何か言われるぞ?)
薫「馬鹿!スケベ!変態!とかな。」
薫(でも、入らなかったら晴香は汚ギャルになっちまうしなあ)
薫「そうだ。そう言えば正当理由ってことで晴香だって許してくれるはずだ。便所の時みてえにな。」
数十分悩んだ後、晴香に電話することにした。
薫「晴香?俺だけど。」
晴香「あ、薫?丁度よかった。電話しようと思っていたのよ。」
薫「ああ、ワンコールで出たから良く分かるよ。で、何か用か?」
晴香「私の身体・・・見た?」
薫「いや、まだだ。それに関することでお前に聞きたいことがあるんだけど。」
晴香「何?」
薫「風呂のことなんだけど。」
晴香「お風呂?まさか、入らないつもり?」
薫「その逆。お前のおばさんが俺に風呂に入れって言うから、入っていいか聞こうかと思って。」
晴香「あっそう・・・いいんじゃない?」
薫「お、おい。そんなにあっさり許しちまっていいのかよ。」
晴香「仕方ないって。元に戻ったとき、体が汚れていたら嫌だから。それに、私はもう見ちゃったし。」
薫「見た?何をだ?」
晴香「薫の男の勲章をよ。」
薫「まじっすか」
晴香「うん、いい反応ね。」
薫「いい反応ねって・・・晴香、嫌じゃ・・・なかったのかよ。」
晴香「そりゃ、少しは嫌だったけど、そのことで薫の身体が壊れるほうがもっと嫌だもん。」
薫「そうか。わりいな、お前に迷惑かけちまって。」
晴香「ううん、気にしないで。私は大丈夫だから。」
晴香「そうだ。着替え、薫は知らないと思うから教えておくけど、下着はタンスの一番下の引き出しに入ってるからね。」
薫「OK。」
晴香「でも、あんまりじろじろ見ないでよね・・・恥ずかしいから。」
薫「そんなこと言っても、目を閉じたら大怪我するぜ?」
晴香「うん、分かってるわよ。必要以上に見ないでってこと。」
薫「OK。それじゃ、なんかあったら電話するな。」
晴香「うん。じゃぁね」
電話を切ると、薫はタンスの前に行った。
薫「一番下の引き出しって言ってたよな。」
そう言いながら、タンスを開けた。
薫「うわっ。」
そこには乱雑に入れられた晴香の下着が入っていた。
薫「晴香よお、部屋はどんなに汚くてもいいから、せめて自分の下着ぐらいは整理しとけよな?」
薫「どれを着ればいいんだ?」
数分考えた後、薫は、晴香が今日身に着けている下着と同じ色のものにすることにした。
薫「学校の便所で見たけど・・・白・・・だったな。」
薫はそこから下着を、クローゼットから着替えの服を出すと、風呂場へ向かった。

私は、衝撃の連続だったけど、なんとか入浴を終えることができた。
まさか、入っている途中であれが硬くなるとは思っても見なかった。
それで、先を触ってたら少しづつ気持ちよくなってきて、気がついたら白い液体が出てた。
何とかそれは洗い流したけど、あれって何だったのかな。
晴香 「あれ?こんな時間に誰?」
私は、携帯の画面を見た。
携帯の画面には・・・
晴香と名前が表示されていた。
今の時間と、さっきの電話の内容からして、すでに薫には私の全てが見られている。
そう思うと、恥ずかしかった。
晴香「スケベ男、何か用?」
薫「全く、第一声がそれかよ。」
電話の向こうの薫は、いつもと変わらない様子だった。
そりゃさ、見てもいい、とは言ったけど、その反応が皆無って言うのは少しむなしい。
晴香「それで?何?」
薫「風呂入ったから、一応言っておこうと思って。」
晴香「そっか、入ったんだ。それで、どうだった?」
薫「何がだ?」
晴香「私の身体よ。見たんでしょ?」
薫「ま・・・まあな。」
少しどもりながら、薫は答えた。
晴香「感想は?」
薫「驚いたよ・・・。」
晴香「何が?」
薫「すっげえ綺麗な女の身体をしていたからさ。」
晴香「・・・どきどきとか・・・した?」
薫「・・・した。」
私は、それがとても嬉しかった。
ずっと女として見られなかった私が、どういう形にしろ女として意識させることができたんだから。
薫「そういう晴香もしたろ?」
晴香「したわよ。男の勲章も固くなったんだから。」
薫「そ・・・そうなのか?そりゃ・・・光栄だ。」
私の発言に、何故か薫は引きつったようにそう言った。
晴香「どうかした?」
薫「男の身体に固くなるなよ・・・俺のアホブツ。」
薫の声には、もはや力がなかった。
そんなにショックだったのかな、男に立ったのが。
次の瞬間、電話は切れていた。